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ゴルゴ「キュゥべえだと……?」(改稿版)第一部

1 :56513:2017/04/24(月) 06:41:36.13 ID:BFt+kkjbE
「キュゥべえだと……?」

「そうだっ! 失踪した私の娘の日記を見るとあの子はキュゥべえという奴に魔法少女にされたせいでおかしくなってしまったんだ!
読んでいると初めは楽しげだったのに途中から内容が変になっていく。その日付は私達があの子の異変に気づき始めた頃とも合致するんだ!
 たっ、頼むっ! 何としても奴を始末してくれっ! この得体の知れない奴を見つけ出し、殺すことの出来そうな男はあなたの他にないんだっ!」
「……」

 ゴルゴは公園の木に背をもたせかけながら、目の前で熱を振るって語り続ける男性の言葉を黙って聞いていたが、
やがて指につまんだ葉巻を口から離して煙を吹き出すと、ゆっくりと口を開いた。
「その日記はあるのか……?」
「もちろん持ってきてある! 読んでみてくれ!」
 男性はゴルゴの声に応えて、半ば白くなった頭を側面をゴルゴの方に向けながら、脇に抱えていた革鞄から慌ただしい調子で学生ノートの帳面を取り出した。

 ゴルゴは男性から日記を受け取ると、人差指と中指で葉巻をつまんだままパラパラと開けていき、目を通していく。
「……」

 男性は目を大きく開き、手を広げ、口から唾を飛ばさんばかりになおも熱心にゴルゴに語りかけた。
「どうだっ!? 世界的スナイパーの君にこういう話をしても荒唐無稽と思われるかもしれないが、私にはその日記は真実を書いているとしか思えないのだ!」
「……」

 ゴルゴはなおもしばらくパラパラと目を通し続けていたが、やがてパタンと日記を閉じると、低く太い声で目の前の相手に向かって言った。
「……いいだろう……。依頼を受けよう……」

 男性の顔が喜びにパッと輝いた。
「おおっ! 感謝するっ! ゴルゴ13!」

2 :56513:2017/04/24(月) 06:42:11.24 ID:BFt+kkjbE
 5月の夜8時。
 ゴルゴの車は高速道路のインターチェンジを下りて見滝原市内に入ると、市の中心部に向けて街外れの物寂しい道を走り始めた。
車のヘッドライトと、ポツリポツリ立つ街灯、今しがた下りてきたばかりの高速道の散発的な照明に、彼が向かう先の市の繁華街からの距離を置いておぼろに薄められた光が混然となって周囲の朽ちた建物と、伸び放題の草の野原を照らし出し、
その人の手を離れた荒涼とした風景の中をゴルゴは黙然として車を走らせた。それほど速度を出してはいないが、夏の夜の草の香りを交えた夜気が、開け放した窓から風となって入って顔を打ち、心地良い。
「……」

「!」
 車で横を通過する際、街灯の明かりに照らされた、元は工場らしい廃屋の壁にチラリと奇妙な物を認め、ゴルゴは車を止めると車から降りた。

3 :56513:2017/04/24(月) 06:42:51.57 ID:BFt+kkjbE
 バタン。夜の闇に勢いよく車のドアを閉じる音が響く。
 車のエンジン音と、進行中の風切り音が彼の耳から止むと、途端に周囲の草むらからの虫達の音色が届いて来きた。
道に降り立つと、辺りの草の冷やされた空気が初夏の夜に涼みを与えてくれる。やや行き過ぎた車から、目にしたものを観察するために先ほど目についた場所に戻り、近寄った。
「……」

 見ると、あちこちひび割れ、黒ずんだコンクリートの上に直径30センチほどの、奇妙な黒いカビのようなものが生えている。
大部を占める円い中央部の周りに触手のような細長い物が何本も生え出し、どうやってか壁に入り込み、根付いているようだ。不気味ではあるが、この荒んだ建物の外壁の様に奇妙に相応しくも見えた。

 ゴルゴがその奇妙なカビのようなものに手を触れようと手を近づけると、途端に辺りの景色がぐにゃりと歪み出した。
「!?」

4 :56513:2017/04/24(月) 06:43:53.20 ID:BFt+kkjbE
 ゴルゴが異変を感じて頭を振り巡らせると、人工的な照明が淡く届く夏の夜の薄闇は急にオレンジを基調とする極彩色の景色に覆われ始めた。
「……!」
 ゴルゴは咄嗟にスーツの内に隠して装着されたホルスターの銃に手をかけ身構える。

 辺りは完全にオレンジや黄色の世界に覆われ、テーマパークの専用小屋のアトラクションを思わせるそのあまりにも日常からかけ離れた非現実的で強烈な光は夏の夜の薄闇に慣れた彼の目をきつく打ち、目をくらまさんばかりだった。

「……!」
 右手に銃を構え、目を見開き、額から汗を流しながら、突然の予測出来なかった出来事に身構えるゴルゴの視界に、周りから奇妙な生き物達が現れ出てくるのが見えた。
初めは一匹二匹だった彼らは、次々と数を増していく。見ると、後ろ足でぴょこんと立ち、途中で短く断ち切られた、細長く立った耳を合わせて60センチほどの体高をした、兎のような小動物だった。
皆周囲の風景に合わせた濃淡のオレンジの体毛に、白黒の線の流しの模様を付けたまだらな柄の模様となっている。
しかし奇妙なことに、一見可愛らしいその動物達の細長く伸びた顔には目と鼻が無く、その異様さに気づくと途端におぞましく感じられる存在だった。それを認めたゴルゴの顔に、ツーと浮かんだ汗が流れる。
 現れ出た奇妙な生き物達は、ピョンコピョンコと小さく跳躍しながら、まるで獲物に迫るかのようにゆっくり周囲から彼に迫ってきた。

「……」
 その行動を認めたゴルゴはキッと眉を吊り上げて目を細め、厳しい顔立ちで彼らに向かって銃を撃った。標的を見据える彼の額の汗はすでに止まっていた。

5 :56513:2017/04/24(月) 06:44:29.88 ID:BFt+kkjbE
 ガウーン
 ヒュンッ
 銃弾が小動物の一体に当たったかと思うと、瞬間その中に吸収された。
「!?」

 ゴルゴの目が驚きに見開いた。数度、一発は同じ相手に、残りはその左右の別の相手に発射する。
 ガウーン ガーン ガウーン
 ヒュンッ ヒュンッ ヒュンッ
 撃った弾丸のいずれもが当たった相手に吸収されていくのを見ると、初めこの奇妙な空間に取り込まれた時と同じようにゴルゴの額に汗が浮かんだ。彼は唖然として今しがた撃ったはずの目の前の動物達を見つめる。
(銃がきかない……!?)

 銃が当たった影響を全く感じさせず、動物達は変わらずピョンコピョンコ鈍い動きで、ゴルゴに近づいてきた。今狙い撃った正面の他、左右と後ろからも次々に動物達は迫りくる。

6 :56513:2017/04/24(月) 06:45:00.19 ID:BFt+kkjbE
「……!」
 半径5メートルほどの距離まで包囲され、輪が狭まると、動物達の密度も濃くなり、隙間がほとんど無くなっている。
ゴルゴがはっと辺りを振り仰ぐと、左斜め後ろの高さ2・5メートルほどに、薄暗くはっきり見ることのできない天井のから奇妙に垂れ下がったロープの先端を認めた。
咄嗟に跳躍し、銃を手にしていない左手で掴むと、その勢いでググっと動いたロープの動きで小動物達の輪の囲みの一角の上を飛び越して脱する。

 小動物達は目と鼻のない顔でどうやってかゴルゴの動きに合わせて奇妙に振り仰ぐと、一瞬静止した後、今しがた彼らの上を飛び越えていったゴルゴの方へ方向転換をし、
再びピョンコピョンコと、今度はたった今彼が逃れてきた場所から追ってきた。
 走り去るゴルゴ。

7 :56513:2017/04/24(月) 06:45:46.36 ID:BFt+kkjbE
「!」
 ゴルゴが走っているとやがて奇妙に襞のように表面が波打った形の絶壁の壁に突き当たった。
この非現実的な目を眩ます派手派手しい景色と、奇妙な生き物達に襲われるという異常事態のため、注意がおろそかになっていたが、
いつの間にか左右に緩やかに曲がりくねった壁に閉ざされた、広い隘路のような所に追い込まれていた。
見上げると、上の方は暗く、空間が捻じ曲がったような視界で果てが見えず、加えて壁の表面はつるつるしており、登攀してここを脱する事は不可能のようだった。

(行き止まりか……)
 上を見上げて逡巡したゴルゴの後方に、走って逃れ置いてきた獣達がピョンコピョンコと追いついて迫ってきた。
咄嗟に振り返るゴルゴの目に映ったのは、ぎっしりと密集した形で大挙して彼に迫る動物達の大群だ。まれに起こるという鼠たちの大量発生を思わせる密度だった。
目も鼻もないが、今や獰猛らしく開けた口の内部(なか)からは肉食動物のような鋭く尖ったギザギザの牙が見え、白くきらりと光る。

8 :56513:2017/04/24(月) 06:46:41.46 ID:BFt+kkjbE
「……!」
 ガウーン ガガウーン
 ヒュンッ ヒュンッ
 ゴルゴが撃つ銃弾はことごとく小動物たちに吸収されてゆく。そうしている間にも獣達の後ろからまた別な群れが押し寄せてきた。
目の前はもはやみっしりと閉ざされ、相当の跳躍力をもってしても飛び越えられそうにない。

(……!)
 ゴルゴの額からびっしり汗が出始め、目は焦りに見開かれた。

 と、ダーンダーンと銃声が響き、ぎっしりと密集した目の前の獣たち群れのの中央部の何体かが薙ぎ倒された。
バタバタと倒れた何体かで隊形が崩れる。目のない彼らは突然の事態に、驚きと焦りからあちらこちら向き、右往左往し始めた。

9 :56513:2017/04/24(月) 06:47:27.79 ID:BFt+kkjbE
 ダーン ダーン
 再び銃声が鳴り響く。バタバタとまた何体か薙ぎ倒されてゆき、それを受けて彼らは蜘蛛の子を散らすようにてんでバラバラに逃げようとし始めた。
それでも、周囲の仲間たちにぎっちり囲まれた状態から逃げ出すのは容易でなく、逃げ出すのがままならない中央の何体かがまた追加の射撃で倒されてゆく。

 ダーン ダーン ダーン ……
 目の前の事態の顛末に驚き、どうやら窮地を逃れ得そうだと半ば安堵を感じたゴルゴだが、銃の音に本能的に目を厳しくし、身構えた。
右手に持った拳銃は銃口を上に向けながらも、胸の辺りの高さで力を抜くことなく構えられている。
だが同時に、普段聞きなれないその乾いた銃声と、辺りに立ち上る派手な濃い硝煙臭から違和感を覚えてもいた。

(……これは……マスケット銃か……?)
 倒れた十数体を残し、小動物達は次々に左右に散って行った。
ぽっかりと空けられた空間を通って、倒された獣達の死体を踏み分けるようにして一人の少女が真っ直ぐにゴルゴに向かって歩みを進めてきた。

10 :56513:2017/04/24(月) 06:48:00.73 ID:BFt+kkjbE
「危なかったですね、おじさま」
「!!」

 身構えるゴルゴの前に現れ、その声を発して届かせたのは、彼の警戒からの予想を外れ、中世の砲兵服姿の奇妙な格好をした、中学生ほどの少女だった。
初めはその視線が得体のしれない相手の顔の位置を予測して彼と同じほどの高さに向けられていたため、案に相違して自分よりはるかに小柄な少女が現れたため、
空間をさまよった目を相手に合わせて下に向ける際、一瞬の思考停止も合わせて、瞬時の隙が出来てしまったほどだった。
少女はティーンエイジの前半と思われる年齢からしてはふくよかな体型をしており、豊かな金髪は縦巻きの両お下げに整えられていた。

11 :56513:2017/04/24(月) 06:48:55.38 ID:BFt+kkjbE
 少女はゴルゴから数メートル離れた正面に立つと、垂れ目気味の穏やかな目ながら、自信に満ち溢れた微笑みの表情で口を開いた。
「私の名前はマミ。信じられるかわかりませんけど、魔女たちを退治する魔法少女の仕事をしています。
もっともこの結界は使い魔達だけのようですけどね。めぼしいのは全部倒しましたしもうそろそろ結界が元に戻る頃ですわ」
「……?」
 ゴルゴが、相手の言ったことが理解できず、なおも上に銃口を向けた銃を右手で隙無く握りしめていると、
「ほら」
マミと名乗った少女が微笑んだまま顔を振り仰いだ。

 すると、周囲のどぎつい極彩色の風景が、暗い闇の方になっている上の方から明るい下の方へと、徐々に筋が溶け出すように放射状に崩れて行き、
その過程からドームのように彼らを覆っていたとわかる奇妙な空間がやがて完全に消え去ると、
また元の見滝原市への入り口の、ぽつぽつと街灯が立っている街外れの廃工場前の夜闇の中に立っていた。

12 :56513:2017/04/24(月) 06:49:46.63 ID:BFt+kkjbE
「しかしおじさま、使い魔相手とはいえ、あの結界の中で逃げおおせるなんて……。それにその銃……」
「!」
 ゴルゴは思わず手に握っていた銃を見つめた。

 少女は目を細めた。同時に先ほどから浮かべている微笑みが一層深いものとなり、きゅっと口角が柔らかく吊り上がる。
あまりの異変に、我を忘れ、うっかり地を見せてしまったという体のゴルゴの顔から、彼が手に持ち、見つめている銃へと視線を移し、また彼の顔へと戻す。
「何か特殊な事情のようですね――それともご職業? 私は詮索しませんが、くれぐれもここで物騒なことはなさらないでくださいね」
 顔を向けたゴルゴと目が合うと、彼女はにっこりと微笑み返した。

 そんな彼女を見て、ゴルゴはゆっくりと銃を懐に戻した。
「遅くなったが感謝する……」
「いえ、どういたしまして」
 マミは目を閉じ、ぺこりと礼儀正しく頭を下げる。
 そこにいきなり、異様な長さの垂れ下がった耳を持つ奇妙な白い動物がひょこっとマミの背中から肩越しに顔を覗かせた。
「マミ、何とか間に合ったようだね。お手柄じゃないか」
「!?」

13 :56513:2017/04/24(月) 06:50:28.62 ID:BFt+kkjbE
 突然しゃべり出した動物にゴルゴは思わず顔をこわばらせた。真っ白な体毛に、丸く飛び出たクリクリとしたルビー色の目をしている。
よく見ると、初め耳と思えた垂れ下がった物は、まさに当の普通の三角形の獣耳からどういうわけか長く飛び出した20センチほどもある毛の房だった。
分かれた先の方はピンクに色づき、その色の変わる境目あたりの所に、どうやってか黄色いリングが手品のショーのように宙に浮いた状態ではまっている。
その体に比して異様に大きく長く、ふさふさとした豊かな毛のふくらみの尻尾を、四つ足を乗せた側のマミの肩の反対側に彼女の頭の後ろ越しに覗かせていた。

「もう、おじさまが驚いているじゃないの!」
 首を横に向けて、肩に現れた動物をたしなめるマミ。動物はゴルゴが顔をこわばらせると、しばらく彼の方を見つめていたが、またマミの方へと横から視線を向けた。
愛らしい顔立ちだが、よく輝くクリクリとした赤い目はどこか対象を通り抜けて遠くを眺めているようでもあり、
得体が知れず、その愛くるしい目と合っても、ゴルゴは顔の緊張を解くことがなかった。

14 :56513:2017/04/24(月) 06:51:25.87 ID:BFt+kkjbE
 しゃべる奇妙な動物の白いふさふさとした毛を心地良さそうに撫でさすりながら、マミはゴルゴの方を穏やかな目で眺めて言った。
「あっ、おじさま。紹介しますね。こちら私の友達のキュゥべえ」
 その言葉を聞いたゴルゴの目が驚愕に見開かれる。思わず息を呑んだ。
(! キュゥべえ!?)

「危ないところだったね、マミが駆けつけなければ君はやられていたよ」
 小さな少年のように甲高い声で口を開くキュゥべえだったが、ゴルゴの顔に一瞬浮かんだ驚愕の表情に気づくと、口をつぐんでじっと彼の顔を見つめた。

 厳しい目で見返すゴルゴ。
「……」

15 :56513:2017/04/24(月) 06:51:48.26 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――

16 :56513:2017/04/24(月) 06:52:38.92 ID:BFt+kkjbE
 シュボッ
 見滝原ビジネスホテルの一室にカポラル葉巻の紫煙が立ち込めた。
 ゴルゴは下着一枚の姿でベッドに座り、電灯で明るくなった室内に、さらに点けたサイドテーブルのデスクライトの直接的な明りの下、
依頼者である父親から受け取った日記を見返していた。

17 :56513:2017/04/24(月) 06:53:11.68 ID:BFt+kkjbE
 つい数時間前のあの事件の後、マミとは特にやり取りをすることなく別れた。
訊きたいことがないわけでもなかったが、キュゥべえとのお互いに対する警戒心から避けたのだ。
彼としては不注意なことに、事件と物事のあまりに意外な展開の連続に、一瞬露わにしてしまった感情を、あの奇妙な生き物に捉えられてしまったが、
いずれ’彼’がマミについていない、彼女が一人の時に接触する機会もあるだろう。
彼女は自分は中学三年生だと言ったが、魔法少女と名乗った彼女が砲兵服の’変身’を解き、一瞬でその中学校の制服姿に戻った時、その制服の型を覚えた。
それから探ればまた容易に彼女を見つけ出すことが出来るはずだ。

18 :56513:2017/04/24(月) 06:55:34.89 ID:BFt+kkjbE
 依頼を受けた父親の失踪した娘は親元を離れて、ここ見滝原市の隣野中学の寮に入っていたらしい。
 日記の内容は初めは好きなお菓子の事、仲の良い友達と遊んだ事など、少女らしい他愛もないものばかりだったが、
途中でキュゥべえに出会い、魔法少女になったと記されてある。そしてそこからは魔女との戦いなど。
 すでに何度も見返した内容だが、実際に彼自身が直面し、窮地に陥った先ほどの出来事を体験して、この日記に記されている魔法少女や魔女というのが、
彼女の妄想や作った物語、あるいは実際の日常体験の諷喩といったものでなく、自身の実体験を書いたものだということが今のゴルゴには理解できた。

 途中から日記の内容は激変し、彼にはそこに記されている文面からその理由は読み取れないが、「死にたい死にたい死にたい」と悲嘆の言葉が書き連ねられ、
最後の方は「ソウルジェムが真っ黒に――」など、彼には意味も内容もわからない言葉が記されている。
 彼女は先ほど彼自身が襲われ、マミが戦うのを目の当たりにしたように、彼自身がまだ目にしていない、使い魔を操るという魔女本体との戦いに敗れて命を落としたのか?
 ソウルジェムの他、グリーフシードなどという言葉もあり、ゴルゴはいまだ理解不能だった。

「……」

 ゴルゴは天井を見上げて息を吹き出し、煙が立ち上るのを見上げながらしばし黙想すると、やがて手にした葉巻を灰皿に押し付け、服を着て出かける準備をした。

19 :56513:2017/04/24(月) 06:56:35.04 ID:BFt+kkjbE
 夜11時。
 見滝原の繁華街のバー。
 ゴルゴは一人でカウンターでバーボンを飲んでいた。
 郊外で発展しているが、都市部ほど騒がしくもないこの街らしく、そのバーもまた、ところどころ親しく楽しげな会話が大小の声で男女によって交わされ、
時々嬌声や大きな感嘆の声、手を打つ音などで騒ぎが湧き起こるが、乱れた風はなかった。
依頼仕事のため回った世界各地で、情報を得るため、女を得るため、
くつろぐために何千回か数え切れないほど立ち寄ったバーの喧騒、猥雑さ、時には自分自身が巻き込まれた暴力事件を体験してきた彼として、
治安のいい日本の国の、そのさらに静かな街のこのバーでの少しばかりの騒がしさなどいたって落ち着いたものだった。
「……」

20 :56513:2017/04/24(月) 06:58:03.08 ID:BFt+kkjbE
 彼がカウンターに肘をついて一人静かにコップを傾けていると、右の方から女のやかましく甲高い声が聞こえてきた。
 ゴルゴがそちらに顔を振り向けると、悪酔いしたのか、ショートヘアに眼鏡をかけた三十過ぎの女がバーテンに絡んでいるところだった。
「だーかーらー、目玉焼きが半熟か固焼きかなんて気にする男とは付き合えないわけ!
 わかる?こっちから振ってやったのよ? フン、どうせ母親がいつも半熟にしてくれたとかそんなのでしょ、あのマザコン野郎」
 こういった酔客の相手に慣れた風のバーテンは、手際よく手にしたガラスコップを磨きながら、時々適当に相槌を打つことで相手の話を流していた。

「……」
 ゴルゴの視線に気づいた女がふと彼に目を向けると、興味を持った風に半笑いを浮かべ、
カウンターに腕をかけることで間にいくつかあるスツールの上を体を滑らせて近寄ってきた。

21 :56513:2017/04/24(月) 06:59:01.06 ID:BFt+kkjbE
「あらー? おじさま、お一人? よかったら一緒に飲まないー?」
 だらしない笑みを浮かべながら、媚びているとも、楽しげに挑発しているともとれる高く甘えた声で、ゴルゴに対し体をくねらせて流し目を送ってくる。
「……」
 目を閉じて黙ってコップを傾ける彼の横顔に拒否の態度を読み取らなかった女は、
今度は彼女からすると高いカウンターのスツール席に一席ごとにつっかえるように足を床につけながら先ほどまでの自席に戻ると、
そこから自分が口にしていたつまみ一式とグラスを取り、それらを持ってスツール後ろから店内を回り込んで、彼の隣の席に移動してちょこんと座った。
「私、早乙女和子。中学校の教師をやってるのよ」

22 :56513:2017/04/24(月) 07:00:08.84 ID:BFt+kkjbE
 中学教師という言葉にゴルゴはピクンと反応し、それまでの無関心の調子から身を起こして彼女の方を見つめた。
 そんな彼を見つめていた和子は彼の興味を引くことが出来て満足したらしく、微笑みながらゴルゴの太い上腕に目をやった。さらに馴れ馴れしい口調で話しかける。
「おじさまアスリートか何か? すごい体つきね。もうスーツの上からもわかるほどパッツンパッツン。ちょっと触ってみてもいい?」
「……」

 黙っているゴルゴの上腕をぷよぷよとした小さな手の指でスーツ越しに指で挟む和子。
「わっ、すごい。ほんと筋肉の塊って感じ。あのひょろひょろしたマザコン野郎とは大違い。
 ――ねっ、聞いて。別れた彼氏ったらね……キャッ!」
 和子は急に声を上げた。手にしていたグラスを傾けて中身を飲み干したゴルゴが、彼女の細い二の腕を取り、自分が立つと同時に彼女を無理やりに立ち上がらせたのだ。
 まだ酔い切った赤い顔だが、その眼にはっと驚きの光を宿して和子は目の前の相手を見上げた。
「――えっ……、ちょっと……。いきなり……――!?」
「……」
 じっと彼女を見下ろすゴルゴの視線を見上げて受け止めるうちに彼女の眼は徐々にとろんとしていき、彼に引かれるままバーを共に出て行った

23 :56513:2017/04/24(月) 07:01:00.88 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――
「アオオーッ! アオオオーッ! こ、こんなの初めて! お願いっ! 私にあの男のことを忘れさせて!
 アオオオーッ!」
「……」
 和子のマンションの一室でベッドのスプリングが激しく軋んだ。
――――――――――――――――――――――――――――――――

24 :56513:2017/04/24(月) 07:02:01.21 ID:BFt+kkjbE
 1時間後、二人は布団を胸までかけたまま、ともに横たわっていた。
和子は体を横向きに倒してゴルゴに寄り添うようにし、その和子を横にしながらゴルゴは仰向けに寝転がり、布団から大きく上げて持った手でカポラル葉巻を吸っていた。

「ああ、あなた、最高だったわ。これでようやくあの男のことを忘れられそう」
 葉巻の煙を大きく吐き出すゴルゴ。
「……
 先ほど中学の教師と言っていたが……」

 ゴルゴの言葉に彼女はきょとんと目を開いて反応した。
「え? ああそうよ。ほんと毎日夕方から夜に残って問題作りや書類仕事やばっかり。人手が足りないから事務職員の仕事まで私達教員がやらなくちゃならないんだもん。
居残りなんて言葉、今は生徒じゃなく 私達のためにある言葉よ。
 でもやりがいはある仕事ね。生徒たちが慕ってくれたら嬉しいし、みんなの成長を見守ることが出来るんですもん」

25 :56513:2017/04/24(月) 07:03:16.71 ID:BFt+kkjbE
 途中からはしゃぐようにして声を高めた和子の言葉を、黙って天井を見上げたまま聞いていたゴルゴだが、
「……
 ここに来る途中、この街で中学生の失踪騒ぎがあったという噂を聞いたが……」
低く口にした。
「あ……あれね……。でもあれは隣野中学の事件で、私の勤務する見滝原中学の事ではないわ。でもやはり心配ね。親御さんの気持ちはいかばかりかしら……」
 心配そうな口調で和子が話し始めた。
「……」
「この街では以前から時々中学生の女性生徒が突然いなくなるの……。犯罪の痕跡もないし、いったいどうなっているのかしら……」
「……」

 和子が突然がばと飛びついた
「ねっ、それより抱いて! 私を朝まで寝かせず、あの男の事をきれいさっぱり頭から忘れさせて!」
「……」
 その言葉を聞いたゴルゴは葉巻をぎゅっとベッド上の灰皿に押し付けると、彼女の方に体を向けて掻き抱いた。

26 :56513:2017/04/24(月) 07:04:16.08 ID:BFt+kkjbE
 朝7時。
 スーツ姿の和子が玄関で慌ただしく片足で立って靴に足を押し込みながら言う。
「それじゃ私は仕事に行くけどゆっくりしていってね。あとこれが合鍵。廊下に置いていくわね。あなたの滞在予定は知らないけどいつでも来てくれていいのよ」
 ベッドに、下着だけの姿に上掛けを掛けたままの状態で横たわり、葉巻を吸っていたゴルゴは、玄関の彼女にも届く太く低い声で答えた。
「約束はできないが、気が向いたら来よう……」
「嬉しい! じゃ、私は行くわね」
 和子は笑いながら声を上げると、一転、慌ただしげに言い置いて出て行った。

27 :56513:2017/04/24(月) 07:05:43.81 ID:BFt+kkjbE
 バタンッ
 和子が出かけて行ったのを確認したゴルゴは下着姿のまま身を起こすと、しばらく耳を澄ませて待機した後、ベッドから足をつけて降りて、室内の彼女の机や書類のラックを調べ始めた。

(……!)
 彼が見つけ出したのは一冊の中学校の卒業アルバムだが、そこに写っている笑顔の少女達の服装にゴルゴは視線を定めた
 昨日マミという金髪の魔法少女が変身を解いた時着ていたのと同じ制服だ。どうやら和子はマミが通う中学校に勤務しているらしい。

 シュボッ
 火を点けたカポラル葉巻を口にくわえながら、ゴルゴは黙々と資料を調べる作業に没頭した。

28 :56513:2017/04/24(月) 07:06:28.54 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――

29 :56513:2017/04/24(月) 07:07:35.40 ID:BFt+kkjbE
 午後3時。
 ゴルゴが見滝原市内の一角を歩いていると制服姿の少年少女が下校してくるのと多くすれ違った。
 女子が着ている制服は、昨夜マミが着ていた、イエロー・サブマリンのカーディガンと、赤い胸元のリボンの上半身に、白黒のチェック柄のスカート姿で、
朝彼が和子の部屋の中学校アルバムでチェックしたのとも同じだ。
履いている靴もローファーに統一されているようだが、白や茶色があり、学年によって区別されているのかもしれない。
すでに見滝原市内の地図を頭に入れたゴルゴは大股の足をゆっくりと進めながら、
ざわざわと騒がしく塊となって見滝原中学の方向から下校してくる生徒達の側をすれ違う形で行き交った。

30 :56513:2017/04/24(月) 07:08:44.93 ID:BFt+kkjbE
 ゴルゴのすぐ脇を三人の少女達が通り過ぎた。
「ねー、まどか。今日先生目に隈が出来ていたけどすっごく機嫌よくなかった!? それに肌つや良かったし。あれ絶対新しい彼氏が出来たんだよ」
「えー、そうなのかなー。てか、さやかちゃんほんとそういうの目ざといよね……ウェヒヒ……」
「それが本当かどうかわかりませんが、もしそうなら先生のために良いですわ。今度は長続きすればいいのですけれど……」
「まーどうせまた長く持っ て三ヶ月とかでしょ。今度はご飯の炊き方がどうとかで喧嘩したりして」
「もー、さやかちゃんったら言い過ぎだよ。さすがにそれはないと思うけど……ウェヒヒ」
「クスクス……あら……?」

31 :56513:2017/04/24(月) 07:09:38.62 ID:BFt+kkjbE
「……」
 いかにも年頃の女子らしくかまびすしく喋り合う三人の上に軽く視線を乗せていたゴルゴに、
ふわっとした肩までかかる灰緑色の髪の毛をした穏やかな顔つきの少女が気付いた。
一番活発に喋って会話を主導していた、3人の中で一番背が高い、細身のショートの青髪の娘と、
その娘にいかにも仲が良さそうに受け答えしていた、ピンクのツインテールのお下げ髪をした、小柄な大人しそうな娘との、
二人の会話をもっぱら傍で軽く聞いているだけという風だった娘だ。
 彼女はゴルゴに気づくと、軽く曲げた肘をいかにも上品な子らしくちょこちょこと可愛らしく振りながら彼の元に駆け寄った。
その間もずっと彼の方に向けていた視線を、前に立つと改めてしっかり相手の顔に向け、軽く息を切らせながら声をかける。
「――あの、よそから来たお方ですか? 何かお探しのようですが、お困りならご案内しましょうか?」
 育ちの良い子らしく、初対面の相手に対する振る舞いも、言葉遣いも礼に適っていて丁寧だ。
「仁美ッ!?」
 一番活発に喋っていた青髪の女の子がそんな彼女の方を驚きの目で見て、思わず声をかける。

32 :56513:2017/04/24(月) 07:10:27.44 ID:BFt+kkjbE
 ゴルゴは目の前に立つ少女の方を、普通の成人男性と比べて一回りも二回りも大きい巨躯でじっと見下ろしていたが、やがて、
「……いや……その必要はない……」
答えると、無表情に彼女から顔を逸らし、またもと歩いていた、彼女らと反対の方向へと歩み去ろうとした。そんな彼の横顔に少女は気がかりそうに軽く眉をひそめて、
「そうですか……もしお手伝いできることがあれば何かおっしゃってくださいね」
声をかけた。
「……」
 ゴルゴは振り返ることなく黙って彼女達の前から立ち去って行った。

33 :56513:2017/04/24(月) 07:11:33.18 ID:BFt+kkjbE
 遠ざかってゆくゴルゴを目で追う三人の少女。
 顔を突きつけ合わせた狭い閉じた空間を作り、ひそひそ話し合っている。
「いきなり知らない人に話しかけるなんて勇気あるねー……」
「ええ……でも何か気になって……」
「あはは……確かにちょっと変わった感じの人だけど……」

 ちらちらとゴルゴの方を見ながら小声で会話する三人だが、少女達の話し声は甲高く、遠くまでよく通る。
「まさか仁美、ああいうのが好みなの……!?」
「ええっ!? 仁美ちゃん!?」
「えっ……いえっ……あの、その……確かにご立派な体格で素敵だとは思いますけど……」
 焦ったような灰緑髪の仁美と呼ばれた少女の反応を見て、青髪の女の子の声が急に高く上がった。
「ははーん、一目惚れってやつだな。しかしこれでまどかは私一人のものだーっ!」
「きゃっ! ちょっと……さやかちゃん……!」
 三人の少女たちはお互いはしゃいで、元気よく小走りに下校の途について走り去っていった。

「……」
 見滝原中学校へ通じる道を通りつつ、ゆっくりと街外れへと歩みを進めてゆくゴルゴ。

34 :56513:2017/04/24(月) 07:12:52.05 ID:BFt+kkjbE
 街外れの国道から脇にそれた見滝原市への入り口の一つ。
 昨夜ゴルゴが、マミによって使い魔と呼ばれていた化け物達に襲われた場所だ。

「……」
 ゴルゴは、廃工場壁の、昨夜盛り上がったカビらしきがへばりついていた辺りを黙視し、手で撫でてみたが、その場所に昨夜の何の痕跡も残ってはいなかった。
 昨夜マミに救われた後、街灯の弱い灯りの下確認した通りだが、昼間のはっきりした光の下で見ても特に手がかりらしきものはなかった

「……」
「何者かしら?」
「!」

35 :56513:2017/04/24(月) 07:13:32.40 ID:BFt+kkjbE
 ゴルゴが半分腰を下ろした状態から素早く身を起こし、翻すと、数メートル離れた所に見滝原中学の制服を着た、長く美しい黒髪の少女が立っていた。
頭には濃紺色のヘアバンドをしており、その眼は年頃の少女に似合わず、感情を感じさせることなく、冷たいものだった。

 彼女はつかつかと彼のもとに歩み寄ると、強く冷たい目で見上げて言った。
「あなたよそ者ね? まとっている空気が違うわ。こんな場所で何を しているの?」
「……
 私は建築業のものだ。この廃屋の地質と傾き具合、セメント面の劣化が少し気になったので調べてみていたまでだ……」
「ふうん……」
 なおも品定めするように冷たい目でじろじろとゴルゴを眺めまわす少女は、
成人男性の中でもずば抜けて体格のいい彼を見上げ、その視線を受けながらも物怖じ一つしなかった。

36 :56513:2017/04/24(月) 07:15:00.58 ID:BFt+kkjbE
「……」
 ゴルゴが立ち去ろうとすると、少女は厳しい声を彼の背にかけた。
「待ちなさい」
 黙って去ろうとする彼の背に向けてなおも厳しい口調で言葉を発する。

「あなたそのスーツの下――ホルスターに銃をかけているわね? それにその左足、重心の掛け具合が不自然だわ。サバイバルナイフでも忍ばせているってとこかしら」
「!」
 立ち止まったゴルゴは振り向いて少女を鋭い眼で見据えたが、彼女は真っ直ぐその視線を受け止めた。

37 :56513:2017/04/24(月) 07:16:15.89 ID:BFt+kkjbE
「……」

 その場を張り詰めた空気の沈黙が支配したが、やがて少女が諦めたように口を開いた。
 彼女は溜め息を吐いて、
「あなたが何の目的でこの街の、こんな場所にいたかはもういいわ。
 ただ――」
 彼女の冷ややかな目がゴルゴを睨みつけて再び厳しく光る。
「この街にいてもろくなことはないと思うわよ。よそから来たのなら早々に立ち去るのが身のためね」
 一層険しく、突き放すような口調だった。

「……」
 ゴルゴはそんな彼女の方をじっと見据えていたが、やがて背を向け、答えることなく、来るとき使った道を街の中心部に向けて歩き出した。

 優れた姿勢と身のこなし、彼と彼の視線を前にして一歩も物怖じしない態度、彼の武器の携帯を見破った洞察力。そして何より厳しく冷たい眼。ゴルゴは歩きながら思った。
(あれも魔法少女か……)

38 :56513:2017/04/24(月) 07:16:50.53 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――
 立ち去るゴルゴの背を見つめながら、黒髪の少女は一人ごちた。
「昨夜ここに使い魔がいたらしいから改めて調べに来たけど……――あれは何者かしら……」

39 :56513:2017/04/24(月) 07:17:16.00 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――

40 :56513:2017/04/24(月) 07:18:40.16 ID:BFt+kkjbE
(「まどか……助けてまどか……!」)
「誰? 誰なの!?」

 まどかの頭の中に見知らぬ少年の声が響く。ピンクのツインテールのお下げ髪を振って辺りを見回すが、誰もいない。
声の主を求めてショッピングモールの改装中の立ち入り禁止フロアに入るまどか。
非常灯だけが照らし出す薄暗い空間の中、異様に長くふわふわした尻尾を持った真っ白な、猫ともイタチともつかない生き物が傷だらけで横たわっていた。
「ひどい……」
 思わず冷たいセメント床に座り込み、抱きかかえる。

41 :56513:2017/04/24(月) 07:19:54.18 ID:BFt+kkjbE
「そいつから離れなさい」
 突然声が響いた。まどかが顔を上げると目の前に、ネックから出た濃いインディゴ・ブルーの物と、その下に上腕の一部まで覆う広い大きさの灰青色の二重の特殊なカラー、
二つに分かれた長い鋭角の裾を持つセーラーシャツを着、胸元にラベンダーの長紐リボンの飾りをつけた、まどかの同級生の暁美ほむらが現れた。
いつも学校で見るよりひときわ感情を感じさせない冷たい目付きで、人気なく寒々した、立ち入り禁止内の一角の薄闇にぞっとさせはするが、よく合うものがある表情だった。

「あなたは……。ひどいよ。どうしてこんなことするの!?」
「あなたには関係のないことよ」
 見上げて非難するまどかを意に介さぬように、ほむらは白いフリルの縁がついた灰青色のミニスカートから覗く部分を隠すようにして穿いた、
縦に紫の菱形が並ぶ黒タイツの脚をつかつかと進めて、まどかが抱きかかえた小動物の方に近づいた。

42 :56513:2017/04/24(月) 07:20:54.39 ID:BFt+kkjbE
 プシューッ
「!?」
「まどか!こっちこっち!」
 突然横から現れたさやかに吹きかけられた消火剤にほむらが顔を背けてひるむうちに、さやかは手にした消火器を放り出し、まどかに声をかける。まどかは促されるまま、さやかとともに小動物を抱きかかえて走り出した。

「今度は サイコな電波女かよ!
 ところでそれなに? ぬいぐるみじゃないよね? 生き物?」
「う……うん……私もよくわからないんだけど……」
 プシュッ
 ビスッ

43 :56513:2017/04/24(月) 07:21:37.34 ID:BFt+kkjbE
「?」
 突然、暗い空間内にかすかに響いたくぐもった破裂音と、続いて起こった、鈍い何かに物が当たったような音の連続に走る二人は思考停止してその足を止めた。

「何……? 今の変な音」
 非常灯のぼんやりした光を頼りにきょろきょろ周りを見回してさやかが言う。
と、二人の鼻に下の方からつんとした火薬の臭いが届いてきた。その臭いの筋の感覚をたどって下の方に顔を向ける二人。

「きゃあぁぁぁぁぁぁっ!」
「うわっ!」
 まどかが抱いていた小動物の小さい額に風穴が空いていた。目には見えないものの、火薬の臭いの煙はそこから立ち上っているようだった。

「どうしよう! きっと死んじゃった!」
 叫ぶまどか
「うわ……あまり血は出てないけど……これは死んだかも。とにかく急いでここから出てお医者さんに見せよう!」
「うん!」
 さやかの言葉に、小動物を大切そうに抱きかかえたまままどかは強くうなずき、二人は再び走り出した。

44 :56513:2017/04/24(月) 07:22:42.93 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――
 プシュッ

 響いた破裂音に黒髪の少女が立ち止まる。
(!
 今のは……サイレンサーを使った銃の音……?)

 周囲をぐるりと見回した彼女の目に映る遠くの壁に、かすかに明るいその先の角から人影が伸びているのが見えた。
その人影はほむらが見るうちに身を翻すシルエットを映し、やがてタッと走り去る足音とともに角の先に引っ込んでしまった。
 ほむらは思わず目を見開いた。
(あの去っていく人影は……!?)」

 少女の周りの景色が突然ぐにゃりとゆがみ始めた。
「くっ……こんな時に……」

45 :56513:2017/04/24(月) 07:23:59.50 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――
「あなた達危ないところだったわね。私は巴マミ。あなたたちと同じ身滝原中学の3年生よ。
 !!」

 襲われるまどかとさやかのもとから使い魔達を追い払って満足げな表情のマミだったが、まどかが抱きかかえるキュゥべえの異変に気付くと思わず近づいた。

「これは……! ひどい……!」

 まどかに抱きかかえられたキュゥべえの頭を手で持ち上げているマミ達三人のもとにほむらが現れた。それに気付くと、きっと相手を見据えるマミ。
「キュウべえをこんなにしたのはあなたなの!? この頭の傷……もう死んだかもしれないわ!」
「その傷はあたしのじゃ――」
「いいからさっさと立ち去りなさい。こんなにまでして……これ以上あなたを見ていたらあなたを許す自信がないわ」
「……」

 弁解を聞こうとしないマミを前に、黒髪の少女はあきらめたように立ち去って行った。

46 :56513:2017/04/24(月) 07:24:59.70 ID:BFt+kkjbE
「あの……この子……知ってるんですか……?」
「ええ 、私の友達よ。ちょっと待ってね、もう無理かもしれないけど何とか治療してみるわ」
 おずおずと尋ねるまどかに対し、マミは年長らしく落ち着かせるように言うと、頭の髪飾りの宝石を外して手に持った。

 パアァァァァッ!
 マミが手にした宝石から黄色い光が強く出、それに照らされた小動物の体のあちこちの傷がぐんぐん治癒していき、最後には一番深かった額の傷もすっかり塞がっていった。
それを見て声を上げるさやかとまどか。
「うわっ……!」
「すごい……!」

 やがて、体の隅々まで治癒されたキュゥべえがぱっちりと目を開いて、愛くるしいクリクリした赤い目で見上げて言った。
「ふう、助かったよマミ。今回は危ないところだった」
「なんとかなったようね。よかったわ」

47 :56513:2017/04/24(月) 07:25:57.54 ID:BFt+kkjbE
――――――――――――――――――――――――――――――――
 フーッ……
 モール内の喫煙コーナーで片手をポケットに突っ込み、壁に背を持たせかけながら葉巻を吸っているゴルゴ。そこに一人の少女が近づいた。
 数日前に街外れで出会った黒髪の少女だ。あの時と同じ見滝原中学校の制服を着ている。

 無表情に見返すゴルゴのもとに、少女は真っ直ぐにつかつかと歩み寄った。
「尾けられていたとはね……。しかもあなたの目的がキュゥべえだったとは……」
「……」

 黙って見返し続けるゴルゴに対して少女は言葉を畳みかけた。
「あなたはどこかの政府の特殊工作員? それともヒットマンというところかしら」
「……」
 灰皿に葉巻を押し付け、火を消して黙って立ち去ろうとするゴルゴを少女が呼び止めた。
「待ちなさい。まさかあなたあれであいつを殺せたと思っているわけ?」

48 :56513:2017/04/24(月) 07:26:41.27 ID:BFt+kkjbE
「……」
 振り向いたゴルゴの視線を少女は真っ直ぐ受け止めた。

「……」
「……」

 しばらく見つめ合っていたが、やがてゴルゴの方がゆっくり口を開いた。
「……仮に――……仮に脊椎動物の哺乳類が眉間に深く傷を負ったとして――その生物が生きながらえるとでも……?」

 その言葉を聞いて少女は初めて軽く微笑むと、少し和らいだ顔立ちで元の冷たい表情に戻って言葉を続けた。
「――認めたようなものね。でも無駄よ。あいつはあんな程度じゃ殺せない。私も何度も試したもの」
「……」
 ゴルゴは黙って目の前の相手の言葉を聞いている。

「おそらくあなたの射撃の腕は相当なものでしょうけど、あいつは一発の銃弾ぐらいで到底殺せる相手じゃないわ。たとえ全身蜂の巣にしようと無駄だったもの」
「……
 その相手は……普通の生物ではないのか……?」

49 :名無しさん:2017/04/24(月) 08:40:43.72 ID:BFt+kkjbE
 相変わらず無表情に感情を表そうとしないが、今までのただ声を相手に届かせるだけといった風情から、今ははっきり少女の方に向かって言葉を発していた。
 より核心に近づいた体の相手の反応を見聞きして、少女は満足そうに微笑んだ。今度は少しくつろいだ表情で話し出す。
「そうよ。しかし、あなたの意図がどういうものか知らないけど、どうやらあたしの障害になる存在ではなさそうね。
 私は暁美ほむら。あなたの名前もいいかしら?」
 少女が自己紹介をすると、ゴルゴは彼女の方をじっと見つめていたが
「……デューク・東郷だ……」
ややあって、低くゆっくりと答えた。

「そう、東郷。あなたの目的がキュゥべえを殺すだけかは知らないけど、また会うかもしれないわね。その時はよろしくね」
 ほむらはすっかり表面だけは馴れ馴れしくしようという調子でしゃべると、ファサと長い黒髪を片手で軽く持ち上げて払った。

「……」
 ゴルゴは彼女に背を向けると、ゆっくりとその場を立ち去っていった。

50 :名無し:2017/05/01(月) 11:33:33.39 ID:MM61StOQa
授業中暇すぎ
いちも何してる?

51 :予言されていることがおこる!!:2017/05/05(金) 21:01:14.17 ID:m2qGDwLrX
予言 「黙示録の獣マイトレーヤが人類の3分の2を抹殺する!」

近未来、テレビに、「手品がうまいマイトレーヤ」が出現するだろう!
「マイトレーヤ」は、民衆の前で「手品」を演じ、人気をえるだろう!!
ユダヤ人は、「あの方こそメシアだ!」「あの方こそが世界を救う!」
と言って全人類70億人をだますだろう!!
「マイトレーヤ」の正体は「黙示録の獣!!」「邪悪なサギ師!!」「サタン」!!

ユダヤ人たちは、「日本の憲法9条」を改悪して、
日本人を「使い捨ての兵士」として利用しようとたくらむ(安倍総理の陰謀!!)
「中東」で「核戦争」(神の火)がおき、自衛隊は核戦争にまきこまれるだろう!!近未来!!
「旧約聖書」に予言されているとおり、核戦争(神の火)はおこる!
すべて「ユダヤの計画」「ニセ救世主マイトレーヤの陰謀!!」
「警告する!!中東には絶対に近づくな!!!!!」
                           ミカエル

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