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立トスてレテス・備忘録

750 :◆p132.rs1IQ:2022/12/01(木) 20:26:55.56 ID:r39ACenRQ
 そうしたことはすべて、アンがデイヴィッドから聞かされて知った話だった。ふたりが恋に落
ち、互いのことを知ろうと努力し、初めてのデートをしてからまもなくのことだ。あのときの自
分は、いったい彼にどういう感情を抱いていたのだろう。いくら思い出そうとしても、アンには
思い出すことができなかった。家に運転手がいるのをあたりまえだと思っているような男とデー
トを重ね、愛しあう。恋におぼれた自分は、デイヴィッドの本質を見抜くことができなかったの
だ。理想家肌の若者という役割は、学生時代のデイヴィッドが背伸びしてつけていた仮面に過ぎ
なかった。実際の彼は、ピンストライプのスーツにサスペンダー、ウイングチップの靴といっ
た、大会社専門の弁護士スタイルに身を固めていたほうが、ずっと肩の力を抜いていられるよう
な人間だったのだ。
 広々としたリムジンの後部座席には、アンも何度も乗ったことがあった。が、一分(ぶ)の隙もなく
お仕着せを着た運転手にあれこれ指図するという役割には、どうしてもなじめなかった。第一テ
ディは、すでに六十代の後半にさしかかっていた。持病のリューマチのために、時にはまっすぐ
立っていられないことさえある。
 だが自分の意見など、ここではだれも気にもとめないだろう。アンは沈んだ気分で歩道の脇に
立ち、ハリーのビルの前の駐車場にすべりこんできたメルセデスを見守っていた。それでもテデ
ィを見ると、やはり気の毒だと思わずにはいられない。年老いたテディがよたよたと車を降り、
後部座席のドアを開け、車から降りるハリーに手をさしだす。彼は自分の仕事を楽しんでいるの
だろうか? 彼がいまだに引退せずにいる理由が財政上の問題やお門違(かどちが)いの忠義心からではな
く、仕事への愛着からであることを祈りたかった。

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