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立トスてレテス・備忘録

749 :◆p132.rs1IQ:2022/12/01(木) 20:25:11.41 ID:r39ACenRQ
ミュージック・ボックス
デボラ・チール
高野裕美子[訳]
p149
 運転手つきのメルセデスのリムジンを、ハリー・タルボットは虚栄心から使っているわけでは
なかった。むろん、必要のないぜいたく品だとも思っていない。彼は、常に仕事に忙殺されてい
る男だった。市や法人組織のさまざまな役員を務め、依頼人はひきもきらず、会社の経営上の問
題にも心を砕かなければならない。七十代に入ったひとりの男にとって――もっともハリーは、
あまり年齢のことを考えないようにしていた――それは並みの仕事量ではなかった。
 時は金なり。後者はふんだんにあり、前者はいつも欠乏していたから、送り迎え用の車を持つ
のは理にかなっていた。何も好きこのんで込んだ電車やバスに何時間も詰めこまれ、腹を立てな
がら出勤することはない。車のなかでハリーは新聞を読み、書類に目を通し、備えつけの電話で
いくつもの用件をすませた。愛車のBMWは週末だけの彼の足で、ゴルフに行ったり、家族と食
事や劇場に行くとき以外は、使われたためしがなかった。
 運転手はガレージの上のアパートに住んでいた。長年タルボット家に仕えているテディは、家
族の一員のような存在だった。コックが非番の日には、時に料理の腕をふるったりもする。彼の
ポットローストは汁気がたっぷりでやわらかかったし、ロースト・ターキーはコックも顔負けだ
った。

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